大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和55年(ワ)1137号 判決

原告 破産者武田商事株式会社

破産管財人 安田昌資

右訴訟代理人弁護士 日野和昌

被告 城南信用金庫

右代表者代表理事 杉村安治

右訴訟代理人弁護士 橋本一正

同 浅井通泰

主文

一  被告は原告に対し、金二一九五万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年二月二一日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮りに執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文第一、第二同旨の判決及び仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  破産者武田商事株式会社(以下破産会社という。)は、昭和五三年一一月二日、午後三時、東京地方裁判所において破産宣告を受け、原告は、同日、破産管財人に選任された。

2  被告は、昭和五二年一二月二七日、破産会社から、それまでの貸付金の弁済として、金二一九五万五〇〇〇円の支払を受けた(以下右弁済を本件弁済という。)。

3  破産会社は、本件弁済の翌日である同月二七日、債権者会議を開催し、その場で支払停止の宣言をなしており、破産会社は、当時、債務超過の状態であり、破産債権者を害することを知って、被告に対する本件弁済をなしたもので、破産法七二条一号に該当する行為である。

4  原告は被告に対し、本訴状をもって、破産会社の被告に対する本件弁済を破産財団のため否認する旨の意思表示をなす。

《以下事実省略》

理由

一  請求原因について

1  請求原因第1、第2項の各事実は当事者間に争いがない。

2  同第3項について判断するに、《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。

(一)  破産会社は、昭和三八年、訴外武田利助を代表取締役とし、工作機械及び工具の販売を目的として設立され、昭和四八年には金融業も営むようになったが、昭和五〇年ころから、オイルショックと従業員の多数退職のため営業不振となり、取引先から代金の前払を受けたり、手形を借り受けるなどして資金繰りをし、昭和五二年五月には、古河営業所を廃止するなどしたが、同年一二月初旬、金融機関から多額の融資を受けることに失敗し、取引先に融資を申込んだが断わられ、経営状態が極度に悪化し、本件弁済当時には、負債合計は約金一〇億円に達した。

(二)  そこで、破産会社は取引先から援助を受けることを考え、同月二三日、金融機関を除く債権者に対して、同月二七日に埼玉県大宮市の埼共連ビルの会議室で会社説明会を開く旨の通知を出す一方、同月二五日、大口の債権者を約一〇社集めて、代表者の武田が債権者の援助がない限り会社はやっていけない、会社の営業をやめたいという趣旨の発言をし、更に同月二七日の会社説明会の席上で、武田は債権者に対し、破産会社の現状を説明をしたうえ、債権者に援助を求めたが断わられたため、破産会社の営業をやめ、整理することとし、債権者に破産会社の整理を委ねたため、債権者は協議のうえ、債権額の多い一〇社を債権者委任に選び整理に入ることになった。その後、破産会社は、同月三一日に第一回の、昭和五三年一月三一日に第二回の各不渡手形を出し、倒産した。

(三)  しかも本件弁済は、破産会社が、多数の不渡手形があったにもかかわらず、被告に割引き依頼していた満期未到来の約束手形を受戻すことと引換になしており、しかも現金でこれをなしているもので、破産会社はこのような弁済をなしたことはなかった。

なお《証拠省略》中には、破産会社が被告から満期以前の約束手形を受戻したことはそれまでにも時々あった旨の供述部分があるが、《証拠省略》に照らして信用することができず、他に前記認定に反する証拠はない。

右事実によれば、本件弁済は破産会社が誠実になしたとはいえず、破産会社が破産債権者を害することを知ってなしたものと認めることができる。

3  同第4項の事実及び本訴状が被告に送達されたことは、当裁判所にとって顕著な事実である。

二  抗弁について

1  被告は本件弁済が破産会社の破産債権者を害することを知らなかった旨主張し、《証拠省略》中には右主張に符合する供述部分があり、《証拠省略》によれば、被告は、昭和五二年一一月末日当時、破産会社に対し、証書貸付金一二四一万八〇七二円及び手形割引による手形貸付金二億九四一三万八六七五円の合計金三億〇四六三万八六七五円の債権があり、しかも右手形貸付金のうち金一億円以上の手形が不渡又は不渡確実であったにもかかわらず、同年一二月五日、武田の要請により、破産会社の定期預金など合計金五四二九万〇八〇三円の解約に応じ、払戻しをしたこと、更に、前項2の認定事実のとおり、破産会社が支払停止を宣言した同月二七日の会社説明会に報告を含む金融機関には開催の通知をしなかったことが認められ、右各事実は被告主張の抗弁を窺わせる事実と、一応、判断することができる。

2  しかしながら、

(一)  前記各認定の事実に《証拠省略》によれば、被告は、破産会社設立以前から、武田個人と取引をしており、破産会社後は、破産会社の主たる取引金融機関であり、破産会社の経営内容を知りうる立場であり、昭和五二年一二月五日の預金払戻しに際しては、武田は金一〇億円の融資を受けないと破産会社はやっていけなくなる旨の発言をしており、本件弁済時までには破産会社の古河営業所が廃止されたことを知っており、破産会社からの割引を求められた手形の中には、通常の取引と思われないパチンコ屋などの手形もあり、右手形によって、資金繰りをしていたこともあり、破産会社の経営状態が悪いことを知っていたこと、

(二)  《証拠省略》によれば、昭和五二年一二月五日の預金の払戻しは、武田の電話による言葉を容易に信じて、他の金融機関の中には預金の払戻しをしていないにもかかわらず、払戻しをなし、その後、しばしば破産会社を訪れ、武田に対し、払戻しの返還や不渡手形の買戻しを要請したが、破産会社は、同月一三日及び同月二三日、極度額金三〇〇〇万円の根抵当権を設定したことの他、本件弁済までに何らの支払もなされなかったこと。

(三)  前記認定事実によれば、本件弁済は、破産会社がこれまで一度もしなかったような、現金による支払で、満期未到達の手形の受戻しを求めてなされたもので、被告もこれを知っていること。

以上の事実からすると、《証拠省略》及び前記1認定事実だけでは、被告の抗弁を認めることができず、他に抗弁を認めるに足りる証拠はない。

三  結論

よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小松峻)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例